日常生活で、子どもに対して「勉強しなさい」などと強制することがあると思います。
理想は、子ども自身が勉強に好奇心や興味を持ち、自発的に取り組んでくれることでしょうか。

どうも、子どもが自発的に勉強に取り組むにはモチベーションを段階的に高める必要がありそうです。
段階的にモチベーションを高める方法について記載してみました。

「勉強しなさい」は逆に勉強から遠ざかる

他人から強制をされる「心理的リアクタンス(psychological reactance)」という心理効果が発動します。
強制されたとき、なぜか腹が立ったり、反発したりする気持ちになります。
なので、強制すると子供は「へそを曲げる」行動をとります。

へそを曲げてしまうと、勉強に向き合うためためのハードルが高くなってしまいます。
結果的に、モチベーションが下がってしまう、「アンダーマイニング効果」が発生します。

だんだんモチベーションが下がる

最初はやる気があったのに、途中からモチベーションが下がってしまう現象を「アンダーマイニング効果」と言います。
アンダーマイニング効果は内発的動機のためにやっていたことが、外発的動機のためにやることに目的が変わってしまうことです。

親の介入で「勉強しなさい」と外部からの強制が入ると、「好奇心」(内発的) → 「強制」(外発的)に変わってしまいます。
子供の持続的な勉強については、このケースの課題が多いのではないかと思います。

「ご褒美」も注意が必要

アンダーマイニング効果の他の例だと、勉強したらご褒美をあげる例です。
勉強を始めたきっかけが「好奇心」(内発的) → ご褒美「報酬」(外発的)に変わってしまうことも考えられます。
せっかく好奇心で始めたことが、いつも間にか報酬をもらうことが目的になってしまうパターンです。

ご褒美自体は悪いことだとは思いませんが、バランス感覚が大切になります。
後述しますが、内発的動機づけが学習意欲や持続性としてはいちばん効果がありますので、
報酬などのご褒美を与える際は、「外発的動機づけだけが残ってしまわないように注意」が必要です。

勉強の強制による影響

勉強意欲は「内発的動機づけ」がポイント

「子どもの生活と学びに関する親子調査2015-2016」(ベネッセ総合研究所)によると、

・勉強が嫌いから好きになった子どもは、学習時間が伸び、成績(自己評価)も上昇
・勉強が嫌いから好きになった子どもは、内発的動機づけが高く、他の動機づけでも学習

学習動機づけ」=「勉強する理由」とし、勉強が好きな人は好奇心や関心と言った内発的動機が高いことがわかります。

なので、勉強効果を高めるには内発的動機づけを高めることがポイントになります。

内発的動機をつけて勉強を促すには「外発的動機から段階的に」

では、いきなり、興味や好奇心をもって勉強!と言っても、すぐできることではいないと思います。
段階的に内発的動機づけに近づけてゆくことになります。

実は外発的動機の中にも勉強を促す方法があります。

そこで、「自己決定理論」で動機の種類を知り、段階的に内発的動機づけへ近づけてゆきます。

「自己決定理論」の動機を活用

「自己決定理論」(Self-determination theory)はデシ(Deci)氏とライアン(Ryan)氏が発表した理論です。
やる気、モチベーションを6段階で表したもので、内発的動機付けまでの段階を示しています。

自己決定理論の段階

では、動機なしを除いた5つの動機で見てみます。

「外的調整」

「勉強しなさい」の強制は、この外的調整に該当します。
外的調整は「ご褒美をもらうため」「叱られたくない」などの外的要因で行動が調整されることです。

「取り入れ的調整」(取り入れ的動機づけ)

「周りが勉強しているから」、「将来不安だから」、「恥をかきたくない」(「自分の価値を守る」)など要因です。
「不安」などの感情が含まれて、徐々に内発的動機に近づいてきます。
明確な外的要因がなくても行動が見られることになります。
子どもの成長に伴い、この「取り入れ的調整」は強くなると思います。

ただ、目的は人から認められたい、自らの不安を下げたいなので、ただ不安を煽るだけだと、
勉強はまだまだ好きになれませんよね。

「同一化的調整」(同一化的動機づけ)

自分自身で必要と思うから何かを行うことです。
「将来のため」「試験に合格するため」などがこれに該当します。

勉強に取り組む行動に価値があると考え、自発的は学習行動がとれるようになります。

「自分のためになる」、「将来のためになる」と本人が重要と捉え行動することになります。
親は勉強することの意味や重要性をしっかり子どもと共有することが大切になってきます。

「統合的調整」

自己決定の度合いが高くなり、自分の価値観と一致しているため学習行動をとることです。
誰かや何かのためではなく、「自分にとって意味があるから」と考え、モチベーションが高くなります。

「内発的動機付け」

統合的調整との違いは、楽しい、やりがいを感じるなどの感情面が加わることです。
内発的動機付けが強くなると、熱中する(フロー状態)なども発生するので高いパフォーマンスが期待できます。

外発的動機づけでも自発的な行動が促せる

前述の自己決定論を見る限り、内発的動機で好奇心などからの理由で勉強ができなくても、
「勉強することの重要性を自分なりに感じ取る」ことで自発的に勉強をする可能性そうです。

まずは「同一化的動機づけ」で、勉強に価値を感じることで、「目的のために大事だから勉強する」と言った理由で勉強を促すことを始めると良いと考えます。
これで「アンダーマイニング効果」の発生を抑制することは可能と考えます。

自発的行動を促すために3つの要求を高める

自己決定理論では自発的に行動を続けるには下記の3つの欲求を満たすことが大事としています。

・自律性の欲求 (Autonomy)
・有能性の欲求 (Competence)
・関係性の欲求 (Relatedness)

自律性の欲求 (Autonomy)

自分で行動を選択し、主体的に動きたいと考える欲求です。
誰かに強制されたのではなく、自分で始めて、自分で終わりを決められること。

この欲求に当てはめると「勉強しなさい」は逆効果になります。
勉強時間やタイミングを自分自身で決めること、親は子供の選択を尊重することも大事になります。

有能性の欲求 (Competence)

自分はできる、能力があると感じることへの欲求です。
このために知識を増やしたり、新しいスキルを身につけるために練習に励んだり、成長を促すための行動する。

成功体験などがあると、この欲求効果が高くなります。
また、スモールステップで少しずつ振り返りを行い成長実感を感じてもらうのが良いと思います。
「褒める」も効果的です。

関係性の欲求 (Relatedness)

他人とお互いに結びついて、尊重しあえる関係を作りたいという欲求です。
「友達との友情」、「集団に属したい」「人の役に立ちたい」等の欲求が含まれます。

簡単に言うと「仲間と一緒に頑張れるとモチベーションが上がる」ことになります。
個人だけの作業ではなく、グループワークを取り入れる、仲間と一緒に目的を達成する等も効果的ですね。


モチベーションを段階的に高めるための方法

自己決定理論を踏まえて、勉強への動機づけ(モチベーション)を段階的に高めるための方法についてまとめてみました。

勉強の価値を共有する

勉強する理由や価値を子どもに伝えます。
子どもが将来なりたい職業などに紐づけると効果的です。

成功体験を増やす

「有能性の欲求」を高めるために成功体験を増やす対策です。
これにより、自己効力感(セルフ・エフィカシー)(Self-efficacy)が高まることになります。
自己効力感は目標や課題点などを「解決できる」「達成できる」と言った「自信」のことです。

スモールステップで確実に達成できる目標を多くこなしてゆくことがポイントです。
「やれる!」と感じて、モチベーションの向上が期待できるでしょう。

お手本となるロールモデルを見つける

コミュニティなどの参加して刺激を受ける人との出会いを増やす方法です。
より身近な人から影響を受けるのがポイントです。
個人的には同年代よりは年上の人が良いと思います。

特に子どもは他者からの影響を受けやすいため、「関係性の欲求」の中で育むのが良いでしょう。

何より、子どもは身近な「親の背中を見て感じる」と思います
親自身がロールモデルになれるように努めましょう。

やれそうな雰囲気づくりを

リフレーミングが効果的かと思います。
ネガティブな表現をポジティブに言い換えて、やれそうな雰囲気づくりを心がけましょう。

ポジティブ・リフレーミングを意識すると「ダメ」などのネガティブ表現を使う頻度が減ってきます。

期待していることを伝える

「ピグマリオン効果」を活用して、期待していることを言葉で伝えます。
正しい期待のかけ方で、モチベーション向上の効果が期待できます

正しく「褒める」

エンハンシング効果を活用します。
エンハンシング効果は「褒める」などの外発的動機づけが加わることで、内発的動機づけが向上することです。
褒めるなどの称賛で内発的動機づけを高める効果です。

「褒める」や「称賛」は外発的動機づけです。
「褒められる」から勉強するわけです。
しかし、「正しい褒め方」で内発的動機づけの向上を促すことができます。

努力や行動に対して褒めること」がポイントです
「頑張ったね」はOKです。「こういうところを考えてできたのが良かったよね」などです。

特に「頑張れたこと」や「できるようになったこと」に対して促せると良いです。
「今まで解けなかった問題が解けるようになった」などの成長による変化点を伝えることにより、モチベーションを高めることができます。

才能や容姿など、元々備わっているものを褒めてもエンハンス効果は半減しますので注意。
「やればできると思った」はNG表現になります。

興味や好奇心の尊重

子どもが興味や好奇心を持ったものを尊重します。
テレビゲームなどを親は否定的に捉えることがよくあると思いますが、まずは好意的関心を示してください。
子どもの興味の中から、勉強に意味や価値があることを一緒に探してみるとより効果的です。

わずかな時間でも「子どもと一緒に勉強する」

個人的な意見もありますが、「孤独にさせない」ことも大事と思います。
親も一緒に考えて勉強する時間を作ってみます。
もちろん、答えを教えるのではなく、子どもの視点や思考を理解して、そのレベルで解き方を一緒に考えたりします。


まとめ

いかかでしたか。

日常ではどうしても感情的になり、「やりなさい」と強制してしまいがちですが、効果がなさそうです。
また好奇心などをもち、勉強を好きになってほしいと願っても、すぐにはそうならず、「段階的に」が必要ですね。
自己決定理論を参考に、内発的動機づけまでの段階を知り、焦らず、感情的にならず、じっくりと学習意欲の向上に努めてゆきましょう。